vol.16 釣りってやっぱりロマンだよな / 米倉 順孝 [2026.01]
「そろそろサクラマスにチャレンジできるかもよ。」
本州レッスンにて雪代イワナを釣った(youtube参照)帰り際、奥田さんにそそのかされた。九州に住んでいるので、その存在を知ってはいたものの、サクラマスをフライで釣るということが、どのようなことを意味するのか見当もつかなかった。
翌月、東北の河川に立ったが、初日は川の規模と水量に圧倒され手も足もでなかった。2日目に、何とか自分の技量でも届くポイントに入った。その日は朝からキャスティングの調子が良く思い通りのポイントに6投ほどしたところで、「ゴツ」という感触があった。「根がかりかな」と思い竿を立てるとラインが走り出した。「でかい!」そう思い体勢を整えた数秒後、水面に銀色の魚体が翻ったその次の瞬間フライラインは力なく水中を漂った。カムチャッカで70㎝のシルバーサーモンを釣った経験からすると、それに匹敵する大きさだったはずである。
しばらく呆然と川の中でたたずみ、魚をバラして初めて目頭が熱くなった。それは悔しさというより、出会えた喜びとか、早すぎる別れの切なさとか、言葉で形容できない感情がこみ上げた。その感情をロマンと表現するのであれば、釣りに対してロマンを感じた初めての瞬間だった。この魚を絶対に釣りたい、とここまで強く思うのは釣り人生の中で初めてのことであったが、同時に年1回数日の釣行でそれを叶えるには、この先何年もかかるのだろうなということは、覚悟した。
大河川に挑むためにキャスティングの飛距離を伸ばすことを当面の目標とし、キャスティング理論について理解を深め、より飛距離を出すための素振りを意識し、実釣レッスンでも飛距離が必要なポイントを選択してもらった。レッスンでうまくいかなかったことを奥田さんからアドバイスをもらい、帰宅後にさらに意識して素振り。その繰り返し。
幸いにも飛距離が出始めたのだが、ここでスランプに陥る。全く魚が釣れなくなったのである。飛距離は出ているのになぜ?サクラマスに出会って3年近くが経過し、キャスティングは上達し以前より飛距離はでているはずだが、釣れない。帰り際に奥田さんから励ましの言葉をかけてもらうが、虚しく感じる。
2020年に50㎝のレインボーを釣って以降、すでに5年が経過し釣果としては全くステップアップできずにいた。実釣レッスンでは、年に1~2度犀川を選択することがあったが、あたりすらない状態が続いた。釣れない私の後ろでは、奥田さんは着実に結果を出し続ける。悔しい。だが、悔しがっても釣れてくれるわけではない。
「週末だけの釣りだし、プレッシャーも高いからしょうがないのかな」
「今回は良いコンディションに当たらなかったな」
などなど、釣れない釣り人の言い訳が頭をめぐるようになった。そうなると、さらに釣れる気がしなくなり、ますます釣れない釣り人の出来上がりである。醜い言い訳を続ける自分にも嫌気がさした。
そもそも奥田さんにしか極められないラインシステムなのではないだろうか?この釣り方をこのまま続けて自分がものにできるのだろうか?この釣りを辞めたほうがよいのか?この時期は本当に苦悩した。
「これは米倉さんの真面目な性格によると思うんだけど」と前置きしたうえで、奥田さんは次のようにアドバイスをくれた。飛距離を出そうとすると力んで失投がふえる。失投が増えると投げ直しが増え、魚を散らす。そうするうちにライン着水後の対応が悪くなる。釣れる気がしないからライン回収が早くなる。という悪循環に陥っているということだった。飛距離さえだせば釣れる確率は高くなると思っていたし、釣れない時間が続いたため、これを修正するのに時間がかかった。飛距離にこだわりすぎておろそかになっていた部分を、意識するようにしたところ少しずつあたりが戻り始めた。
2025年4月。練習のつもりで九州のお気に入りの川に立った。
飛距離を出すことを一旦意識から外し、丁寧さを強制的に取り戻すため、いつもよりもティペットを3ftほど長くとった。そのうえで、ティペットの先まできれいにターンさせる、リーチをしっかりとって流速に合わせた角度でラインを着水させる、スイングスピードを保つためのロッドワーク。ただただ流れのリズムに合わせスイングに集中する。
すると、突然ドラグが鳴り響いた。本命だな、とやけに冷静にやりとりし、岸際に魚を寄せる。そこには、本流ダブルハンドの釣りを始めた時に目標とした、銀色の「大山女魚」が目の前に横たわっていた。しばらく放心状態でどれくらい時間が経っただろうか。ふと我に返り「今はガッツポーズして叫ぶところだよな」と思い返し、河原でガッツポーズしたおっさんが涙を流しながら大声で叫んだ。「こんな魚を釣りたかったんだ。」
それからは急に視界が開けた。流れをみて戦略を考える余裕も出てきて、川に立った時には釣れる気しかしなくなった。そして、その秋北海道の本流にて60cmアップのレインボーを仕留めることができたが、この時は確信に近かった。その後の犀川レッスンでも、2匹の良型のレインボーをキャッチした。犀川ってこんなに魚がたくさんいたんだな。
本流ダブルハンド・スペイキャスティングの釣りは魅力的である反面、とても難しい釣りだ。キャスティングやタイイングが実釣レベルになってからも、そう簡単には釣れてくれない。釣れない期間は本当に苦しい。それでも続けられているのは、そこにはロマンがあるからだと思う。サクラマスの初挑戦で、釣れなくて本当に良かった。もし釣れてしまっていたら、壁にぶつかった時に乗り越えられなかっただろう。釣りってやっぱりロマンだよな。
今、本当の意味でサクラマスの挑戦権を獲得したと思っている。来期のサクラマスシーズンに向けてこの原稿を書きながら願う、サクラ咲け。
