vol.4 山形釣行記-前編/奥田 巌啓[2010.08]
桜吹雪のサクラマス
サクラマス...言わずと知れた日本を代表する美しいサーモン。
「桜が咲く頃、海から上ってくる鱒」、あるいは「桜色に染まる鱒」ということで桜鱒と呼ばれるようになったとか。
その美しさはもちろん、釣ることの難しさ、この釣りを取り巻く風景も含めて全てが桜鱒釣りの魅力。
「この楽しさを北海道の方にも是非味わっていただきたい...」と、1月新年会から今回の遠征はスタートした。
真冬から早春までアメマスとシートラウトで腕を磨き、タイイングにも精を出した。
満開のソメイヨシノが咲き乱れ、桜吹雪の下で流れの中に立ち思う存分ロッドを振り、堂々と桜鱒と対峙できる喜びを知ろう...
桜色に輝く魚体を手にした時、すべての苦労が吹き飛ぶから。
海を越えて
5月2日夜、札幌を出発。フェリーに乗り込み、海を渡る釣り旅が始まった。
本州出身の私は船旅に慣れてはいるが、いつも心地よい緊張感がある。
とはいえ、北海道を出航するとき「行くぞ!」と気合いが入るのは初めての経験だ。
初めての船旅で徹夜にもかかわらず、寝付けない人。妄想が膨らみ、ひとりニヤける人。
皆まだ見ぬ川を想像しながら、仕込んだフライをもうキャストしていたのだろう...。
4時間後には青森に到着する。
ようこそ本州へ
下船準備の船内放送がかかり、車に乗り込む。ハッチが開き、その向こうには「ようこそ青森へ」の文字が。テンションが上がる瞬間だ。これまでは「今回の釣りもこれで終わり、帰るのか。」と思っていた東北自動車道終点の青森インターなので、不思議な気分を味わいながら本州ドライブが始まる。
辺りが白々と薄明るくなり、満開になったソメイヨシノが浮かび上がってきた。やはり何度見ても、日本の風景にはソメイヨシノがよく似合うと思う。
東の空から陽が昇る頃には秋田県に入った。米代川、雄物川、子吉川...車窓には北海道とは違う、まるで日本昔話に出てきそうな風景が広がる。どの川も釣り人旅情を掻き立てるには充分過ぎるほど。しかし残念ながら禁漁期間中の秋田県。高速道路を利用してさらに南下した。
瓦屋根の建物が目に入ってくる頃、遠くに鳥海山が。いよいよ山形県だ。
懐かしい顔
遥々走って、ようやく到着した山形。まずは鳥海山の麓を流れる日向川の河口にある、「フィッシング トミヤマ」さんへ。
本州時代にいつも笑顔で迎えてくださった、懐かしいお店だ。長旅の疲れが癒されていく。
私としては懐かしい話で盛り上がりたいところだが、すでに全員の鼻息が荒い。
店内には今年上がった見事なサクラマスの写真が所狭しと並んでいたのだから。
「お待たせしました~。最上?赤川?日向川?どこにする?」
「ちょっと覗きに行ってみようか...」
日向川
トミヤマさんからすぐの日向川。
少し護岸が増えたようにも見えるが、変わらぬ流れがあった。
「あっ、いる!いる!」早速サクラマスの姿を発見。
「よし、初日は日向川でやってみよう。」
急いでトミヤマさんに戻り釣券を購入。これもまた、北海道ではない釣りの1コマだ。
少なくとも10年以上は立っていない日向川の流れ。東京からせっせと足を運んだ頃を思い出す。
振り返れば鳥海山。もう写真を撮る余裕もなく、ただただ夢中でロッドを振り続けた。
今日はアタリすらなかったメンバーも修学旅行気分でおしゃべりに花が咲き、楽しい夜になった。
きっとあの頃より少しは上がった私の腕。明日は桜が咲くかな...?
後編に続く »