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Fisher's Column

vol.7 一年の節目、サクラマス釣行/船渡川 力[2013.12]

2010年GW早朝、家族を車中に残し一人忠類川最下流部で釣りをしていた。狙いはドリーバーデン。
奥田さんからある程度の情報を聞き、時合いを見定めたうえで川原に降り立つがやはり雪代により水が多い。秋にサーモン釣りで訪れたときとは比べようも無いほどの激しい勢いで、最下流部の橋より下のごく僅かな区間でしか竿が出せなかった。
ストリーマーで流れの緩い目ぼしいところを探っていくが反応はなく、1インチ半のチューブフライにしたところでようやく一匹のオショロコマを手にした。やや銀色がかった魚体ではあったがこの魚が降海したものかは分らない。いつのまにか河口にルアーマンが二人幾分期待なさげにルアーを投げていた。「もうサクラマスが入ってくるのか・・」その日の釣りを諦めリールにラインを巻き込む。家族旅行中の釣りであるから仕方が無いが、中途半端な一流しに区切りをつけるともうひとつ忘れていたことを思い出した。
・・・今日は仲間達が山形にサクラマス釣りに行っているのだ。

A氏とツーショット

道内河川での釣りではサクラマスの存在は非常に矛盾しており、サクラマスの釣れてしまう時期と流域を考慮してそこを避けなくてはならない。河川でのサクラマス採捕は法律違反として重く処罰されてしまうので間違って釣ってもリリースすれば良いといった性質のものではない。
しかしパワーウエットはサクラマスを釣ることによって日本で極限まで磨かれた釣りとされているのだ。これはどうしても行かねばならない。本州に行って釣りをすること以外にサクラマス釣りの一端に触れることはできないだろう。 そして翌2011年4月、幾多のしがらみに折り合いをつけ漸く一年越しの山形釣行が実現した。

桜の開花は残念ながら平年より遅れているようだ。桜吹雪の中で気持ちよく竿を振るのが第一の目的であったから出鼻をくじかれた思いだ。はたして川の桜は咲いてくれるだろうか。
今回の同行者は顧問の奥田さんとサクラマス挑戦2年目のA氏である。 この冬2本のシートラウトを釣り絶好調の彼がサクラマス釣りの雰囲気の良さを教えてくれたことも山形釣行が実現した要因のひとつである。

日向川

橋の上より川を確認するが前日の雨により各河川ともに増水気味のようだ。フィッシングトミヤマさんで日向川の釣り券を購入する。前回も日向川で釣りをしたそうなのでおおよその川の規模は聞いていたが増水のため立ち込める範囲も限られてくる。当然本来の狙うべき筋まではフライが届かず流心脇のヨレを中心に攻めるが反応はない。そもそもサクラマスのつくところが皆目見当がつかないので上手くフライを流せるところを探すしか手がないのだ。
主だったポイントを見てまわりふと携帯を見るとメールが3通入っている。どれも札幌からの激励のメール。気に掛けて貰っていることが嬉しくもあり幾分プレッシャーも感じてしまう。 大振りなフライを逆風に向かってキャストし続け初日が終わった。奥田さんに3度ほど当りがあったようなので魚が入っているのは間違いないようだ。翌日水位が下がることを期待して初日を終えた。

鳥海山

2日目、これ以上ないくらいの快晴となった。初日に一番可能性を感じたポイントに向かう。そこは堤の下がいくつかの流れの筋を形成し対岸寄りを流れている。適度な水深とはっきりとしたカケアガリから次第に流れが広がりを見せ、緩くともたっぷりとした水量が川全体を覆っている。だが前日に竿をだしたときはその水の多さからプールの後半部分を軽く流すにとどまっていた。期待を込めて川を覗くとかなり減水しているではないか。昨日より40~50センチほど減っており、対岸の流れがとても魅力的になっている。「なんとかあそこに立ちたい・・・」早朝でまだ光量が少ないながらも一段小高い所から確認するとなんとなく行けそうに見えた。とはいえ未だ増水中の河川であるから慎重に川を遡っていく。この日履いていたネオプレーンのストッキングがウェーディングを助けてくれる。そうして狙い通りの立ち位置についた。ここからなら手前の流れをかわして対岸の流れ込みの筋に届く。そう思うと一気に緊張してきた。呼吸を整え核心部を通過するまで絶対にミスキャストしないことを肝に銘じて下り始める。タイプⅡのラインで真っ直ぐポイントに投げているから狙っている範囲では殆ど沈んでいないはずだ。この釣り方であっているのかは分らないが、魚がそれほど沈んでいるようには思えなかった。渓流でヤマメなら間違いなくこの筋にいる。

日向川

数投しているうちに対岸に奥行きがでてきた。それにつられて無意識に少し対角寄りに投げる。 「これは少し(角度が)深いかな?」と呟いたその時、ゴンゴンゴンと首を振るはっきりとした当りが伝わってきた。
緊張して釣りをしていた筈なのにいざ当りがあると何が起きたか理解するのに少し時間がかかる。しかし間違いなく魚だ。この重量感は本命なのだろう。スイングの開始直後に掛かったからフッキングは良いと思うのだが、まず足場の良いところまで移動しなければならない。奥田さんの誘導により岸際の中洲に辿り着いた。ふと、しっかりフッキングしているのかと不安になり静かにやや強めに下流側に竿を煽って合わせを再度試みる。よし、大丈夫だ。急に気持ちが落ち着き、こちらによってきた魚とテンションを保つためリールを巻き続けた。魚体を抱きかかえて写真を撮っている光景を思わず想像する。しかしそんな気の緩みを見透かしたかのようにリールを巻く手に急に重みが感じられなくなってしまった。

日向川

生命感に満ち溢れたラインの手ごたえはまるで溺れたものが掴む藁のように絶望的感触へと変わり、一度にヒートアップした心臓の高鳴りと喪失感は手足を震わせたまま只、呆然と川原に立ち尽くす。・・・フッキングのタイミングが遅かったのであろうか。強烈に後悔の念がこみあげてくる。しかし同時に釣れなくても仕方がない、まだあれは自分に釣られるサクラマスでは無いのだとも思う。でもせめてその姿だけでも見せてくれたら・・・。
しばし休憩のため川を上がると眼前に鳥海山がその堂々とした山容で佇んでいた。小鳥が囀り、川面を吹き抜ける風が穏やかに木々を揺らしている。瓦屋根の家が本州に来ていることを実感させる。
最終日、それまでの疲れと降雨の為、車で待機していたところ一人のルアーマンが話かけてきた。秋田から来た彼は我々が北海道から来たことに驚いていたがとても人懐っこい話ぶりでなんだか逆に不思議な感じがした。北海道でそんな風に話しかけられること自体少ないしこちらの釣り人は一様に表情が柔らかく親切であった気がする。ここではサクラマスを取り巻く環境が素晴らしい。県の魚というだけあって釣りをする人もしない人もサクラマスの価値を知っている。ましてやフライで挑むとなるとその一匹の価値は計り知れない。北海道で釣りをしている我々にはその感覚そのものが新鮮であった。

本州まで釣りにくることは平均的な釣り人である自分にとって確かに遠征といえるであろう。だが北海道が雪代により狙って釣る魚が少なくなるこの時期、自分の実力を試す絶好の機会といえなくもない。とりあえず何年かかってもまず一匹釣ってみよう。そこから新たな事が見えて来る筈であろう。そう思えばそれまでの期間漠然と釣りをすることができなくなる。まずこの目の前の流れから丁寧に釣りをすることだ。そうして再び竿を手に川へと続く土手道を慎重に降りて行った。 (了)

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