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Fisher's Column

vol.10 同じサイズの魚の間に/吉野康之[2016.04]

何においてもそうですが、出来ないことが出来るようになるためには、「成功体験」が大切ですよね。
野球で言えば、遠投80メートル投げれるようになったとか、甲子園に出た高校に練習試合で勝ったとか。
この釣りで言えば、バブルハンド、オーバ-ヘッドで20メートル遠投が出来るようになったといったスキルの「成功体験」や秋のアメマスは釣れるようになったといった結果の「成功体験」が、釣りや練習をしていくモチベーションに繋がっていくものです。これで次の目標に向かう意欲が出ますし、第一の「明日、釣りに行こう」になります。
だから、「この出来るようになった」とか「出来た」は、何かを続けていくのに必要な経験です。
でも、ここに大きな落とし穴があります。「成功体験」が次のステップの妨げになってしまう場合があります。
私の場合「カムチャッカでの64センチ・キングサーモン」を「ボートからでなく地に足をつけて」「フライ」で釣った。という強烈な成功体験がこれでした。

キングサーモン

前回のコラムvol.12にも書いたように、この釣りを初めて紆余宇曲折のうえ到達点としての「キングサーモン」でした。(一つ自慢をするなら、次の年のここのガイドの年間カレンダーに写真入で掲載されましたよ。)
これで、鼻高々、出来た気になり、帰国してからは「既に出来た自分」でいました。
しかし、これで緊張感を無くしてしまい、練習はしなくなり、釣りの現場に行っても雑な釣りになっていきました。
もちろんこれは今になって分かることで、当時は「出来た」感でいっぱいで緊張感がなくなったことも、雑な釣りになっていたことも気づいていません。
当時を振り返るとひどいものでした。オーバ-ヘッドキャスティングの調子が悪くなった程度でなく、「投げれなくなった」まで「出来なくなっていきました」。
数ヶ月の間に「出来ていた」ものが「出来なくなる」体験をしました。
でも、頭の中は「ちょっと調子が出ないナー。前はちゃんと投げれたし。キングサーモンを釣った私だから直ぐに調子がもどるだろう・・・」。
釣れなくても「川のコンディションが良くなかったね。なにせ私はキングサーモンを釣ったのだから・・・」
この思考パターンです。
目標もなくなり、成功体験だけ引きずっているパターンです。
何故これがいけないのか。考えの基準が過去なんですよね。出来ていないのは現在なのに、出来た過去で考えている。本来なら出来ていない「現在」を基準に「今」何をしたらいいのか考えないといけないのに、「現在」の自分がみえていない訳です。
成功体験が、かえって妨げになっている。このパターンに入ってしまっていました。

カムチャッカの釣行が平成26年6月でしたからそれから大方1年間こんな状態で一気に下り坂を墜ちて行きました。
この間、カムチャッカでご一緒したF君とイトウ狙いにいったり、A君たちと山形にサクラマスに出かけたり、それなりに出かけてはいたのですが、こんな状態です。
はっきり言って釣りになっていないです。お仲間たちは優しいのではっきりは私に向かっては言わなかったのですが、後で奥田さんから聞いたところでは「吉野さん、もうだめかもしれませんね」と言われていたそうです。
まるで、重篤の患者みたいですね。でも、その頃はそうだったと思います。キャスティングといった見えるスキルはもとより、「釣ってやる」「釣りをしていて楽しい」と言ったメンタルの部分がなくなっていました。
はっきり言ってこれでは、「釣れない」以上に「釣りをして楽しくない」状態です。
お仲間からみてこんな具合ですから、奥田さんは当然ながらもっとシビアでした。
今でも耳に残っています。
「吉野さん。初め何を目標にして、この釣り始めたの? もう一度思い出してごらん。ガイドについてもらって釣れました。が目標だった? ロシアで釣ることが目標だった? 違うでしょ。『どこででも一人で、安定した釣りが出来るようになることが目標だった』でしょ。 今、全くできてないよ。カムチャッカに行くまではカムチャッカを目標にやってきて、それなりに上達したけど、キング釣っておしまいになっているよ。 もう一度火を付けることは、初めてやるより難しいよ。でも、いまやらないなら吉野さんのこの釣りはおしまいだね。」
「来年のカムチャッカは、誰でもご参加くださいと言うつもり無いから、覚悟しておいて」
こんな感じでした。
冷徹な拒絶。最後通告。戦力外通知。末期ガン告知・・・・H27年8月、そんな言われ方でした。
奥田さんの目的は、過去の成功体験を引きずることなく、「今」足りないこと、「今」やらないといけないことに気づいてもらう事だったんでしょう。
そこで決心。
「再度カムチャッカに行きます。但し、次の10月北海道釣行までに、少なくてもオーバーヘッドキャステングが戻らなければ、この釣りやめます。」
再出発が始まりました。
一度、練習をしてきただけに、練習の迷いはありません。後は毎日やるかやらないかだけ。ここから2ヶ月、毎朝30分のキャスト練習の始まりです。
決まりは単純「毎日・30分」です。(実際、行った日の記録をつけ、30分もタイマーで計測して)

そして運命の10月。
飛行機に乗る前の連絡メールの奥田さんからの返信「キャスティングの調子もどりましたか」・・・・優しい言い方じゃないですか。
本当は「出来るようになっただろうな。でなかったら、もう俺の前に来るなよ」です。
もちろん、私からの返信は「大丈夫です、しっかり練習してきました。」
奥田さん:「その言葉待ってました。」
飛行機に乗る朝も練習に行ってきました。自分の出来るレベルは把握出来ています。出来るか、出来ないかの不安はありません。前回のカムチャッカぐらいにはなっていました。後は奥田さんの試験を受けるだけです。
奥田さん:「吉野さん。何とかなりましたね。」
私:「首の皮一枚。何とか残りましたね。」
この時の石狩川は、「小さな釣りの神様」がおられました。
キャスティングが安定していたことで、釣りに集中が出来、厳しいコンディションのなかでも緊張を切らすことなく釣りが出来たおかげで、ほんの小さいながらもニジマスが釣れました。
小さな釣りの神様が、一匹くれたご褒美です。ご褒美だからありがたく頂き、次にむかう力を与えてくれました。

それからは、「どこでも一人で安定した釣り」の為にスパルタ教室の始まりです。
まず、川の見方と入る場所の再確認。いい思いをした場所に入らないことの徹底。
川に入る前には「今日のこの川のフライの選択と狙う棚を答えなさい」「なぜそうなったかきちんと説明しなさい」「ほら、また適当に言ってるでしょ」「こう言っておけば私の機嫌がいいと思って言ってるぐらい分かるから」こんな感じの優しい指導が続きます。
(このやり取りの中から生まれたのが「吉野式FFチェックシート」です)
キャスティングもただ遠くに飛ばすだけでなく、風への対応や着水のカタチを意識したキャストなどなど。

そして、いよいよ「歴史的大金星」の日がやってきます。
この時は釣行の前日、北海道入、奥田さん家に宿泊。カムチャッカ以来の友人のF君からのキャスティング・レッスン(朝の4時までの宴会⇒7時出発、いやはや)。F君の竿先5センチとぶれないシャドウキャスティングに恐れを抱き、奥田さんからは次回のカムチャッカの厳しい展望を聞かされ、でも、私は明日からの釣行のことで頭がいっぱい。まるで、甲子園第1戦目の高校球児のように。
翌日からの釣行は、気持ちが充実。今までなら怯むような大河川でも向かう気持ちと「今日は釣れそう。いや、釣ってやる」感をキープしていました。
そして、2日目、朝からハイテンション、でも頭はクールに・・。
朝、早々に1回目のアタリ。「よし!今日は、今までのどの日とも違うぞ」
昼過ぎ、大きなプール尻、緩やかな流れにしっかり、ラインが馴染みフライがスイング。ゆっくりリトリーブ。「クックッ」小さなあたり。
ゆっくり深呼吸一回。フライをチェック。川の流れを確認。キャスト。リーチ。スイングが始まり・・・・「ドカン!!」。本当に「ドカン」という音が川一杯に。(そんなわけ無いか)リールが鳴り響きます。
引き出されるライン。今までの魚とは比較にならない力強さと重量感。
よく「魚と釣り人が繋がった」と表現されますが、この時は「釣りと自分が一体になった」。そんな感じでした。  

レインボウ
そして、結果はこの「本流での64センチ、レインボウ」です。くしくも前のカムチャッカでのキングサーモンも64センチ。
違う国、違う川、違う魚。ですが同じ64センチの魚の間にはこんなお話がありました。

さあ、次はこの春には憧れの「サクラマス」。地元四国で「サツキマス」。
夏には再びカムチャッカで「スティールヘッド」
そして、チームHOTOP MVP「3連覇」。※
その先には、60才定年退職して行く「スコットランド」
「スペイリバー」に立ち「きれいなスペイキャスト」で、「フルドレスサーモンフライ」を流す。
「アトランティックサーモン」を前に「シングルモルトスコッチ」で乾杯。
帰りには「ツイードジャケット」「カシミヤセーター」を買おう。
目標は『どこででも一人で、安定した釣りが出来るよう』を目指して。

キングサーモン
平成28年3月 淡路島在住  吉野康之
※チームHOTOPとはワイルドフィッシング公認釣りチーム。MVPとはチームHOTOP忘年会にてその年最も努力し成果をあげた釣り人に贈られる賞である。

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