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Fisher's Column

vol.15 イーチャリバーに「ガリエツ」を求めて/尾田 昌紀[2017.08]

イーチャ川

「カムチャツカには50年前のアラスカがある」これは、アラスカのフィッシングガイドが羨望の眼差しを向けながら語る言葉なのだそうだ。米ソ冷戦の時代、カムチャツカ半島は、アメリカと対峙する重要な軍事拠点であったため、ソ連人であっても容易に立ち入ることが出来ないエリアだった。そのため、21世紀に至っても手つかずの自然が残っている。孵化放流事業もほとんど行われていないため、無数に流れる河川にはネィティブのトラウトやサーモンであふれている。それを求めて北米のアングラーがわざわざモスクワ経由で訪れるほどの場所なのだ。私もサケ科魚類の研究者の端くれである以上、生涯に一度は現場を踏んでみたいエリアだった。

 

本州の出身者にとって「イワナ」は幻の魚であり、憧れの対象だった。高校時代に名著「イワナの謎を追う」を読み、著者の後を追うように北海道に渡りイワナ(アメマス)の研究に取り組んだ。北海道で存分に渓流釣りをしたい、というのが隠れたもう一つの本音だったのだが。。。そもそもイワナ属魚類は形態変異に富んでおり、研究者によって細かな分類が異なるが、大きくは以下の3つのグループに大別される点では一致している。すなわち、ブルックトラウト(カワマス)、レイクトラウト、アルプスイワナである。日本に生息するイワナはアルプスイワナのグループで、イワナ(アメマス)とオショロコマの2種類である。実は、このアルプスイワナのグループが分類学的に最も混乱しているが、今のところアークティクチャー(北極イワナ)、ドリーバーデン(オショロコマ)、イワナ(アメマス)、ブルトラウトに分けられている。特にアークティクチャーとドリーバーデンは形態的に酷似しており分布域も重複している。果たしてこれらが別種なのか、という疑問も湧いてくるがDNA分析では明瞭に識別できるそうだ(ちなみに、ロシアからのDNAサンプルの持ち出しは原則禁止されている)。

 

私と奥田氏との出会いのきっかけは、実はカムチャツカではなかった。「Gijie誌」でコッピ川のシーマ釣りの特集を読んで、何とかロシア沿海州に行くことが出来ないか調べていた時だった。2016年のことだがネットで検索するとワイルドフィッシングのコッピツアーの募集がヒットした。そこにイーチャリバーのツアーもアップされていたのだ。思ったら即行動が信条なので、早速、電話した。原産地でネィティブのトラウト、サーモンが釣りたいと伝えると、話が盛り上がり、互いに東海地方出身であることもあり2時間以上話し携帯の電池が切れて会話が終了した。その年は、カナダのカットスロートトラウト遠征が既に決まっていたので2017年にツアーが催行されることを期待して年が明けた。3月にホームページを見ると8月のお盆にカムチャツカのイーチャリバーのツアーの募集が出ていた。電話で聞くと間もなく締め切りとのことだったが、年度の明ける4月上旬まで待ってもらい、メンバーに加えてもらった(公務員なので新年度にならないと仕事のスケジュールがみえないのだ)。その時の電話で、ここで釣れる「ガリエツ」はアークティクチャーかもしれないと伝えられる。俄然、テンションがあがってくる。ネットでカムチャツカの釣行記を検索するとアークティクチャーを釣ったという報告がいくつもヒットする。果たしてカムチャツカにアークティクチャーが生息するのか?場所が場所だけに詳しい調査は行われていないのだろう、手持ちの文献を調べてもよく分からない。水産庁の研究所にいる先輩に問い合わせたが、状況は同じだった。そこで釣れる「ガリエツ」が何なのか確かめずにはいられなくなった。「江戸時代の北海道みたいな場所です!」というフレーズも私の心をとらえて離さなかった。まだ、そんな場所が世界に残っているのだ。奥田氏は釣りも上手だが、客を釣るのもうまい。まさにマッチ・ザ・ベイトで私は釣られてしまったのだ。

 
カムチャッカの六輪駆動車

さて、8月に入り出発の日が近づいてくる。仕事を叩き込むようにして片づけ、あれこれ理由をつけて遠征期間中に仕事が入らないよう調整する。日本で長期休暇を取るにはある程度、「腕力」が必要なのだ。ところが、存在すら忘れていた台風5号がゾンビのように復活し、本州に上陸する可能性が出てきた。さすがに自然に「腕力」は通用しない。ひたすら飛行機が飛ぶことを祈って8月9日を迎えた。厄年が明けたおかげか、台風は通過し関空から無事にカムチャツカに到着することが出来た。エリゾボ空港に着陸すると、ロシア空軍のミグ31戦闘機がお出迎え。やはり、ここは今でも米ロの軍事的境界線であることを教えてくれる。おそらく軍用車両の払い下げと思われる六輪自動車に乗って「江戸時代の北海道」に分け入っていく。夜遅くにロッジに到着。2日間の強行軍の疲れから綿のように眠ってしまった。

 

翌日から釣りスタート。3パーティーに分かれてボートに分乗する。私の班は、まずはロッジ前。いきなり第一投からヒット。「パイマール」と叫ぶが、バレてしまった。でも、その後コンスタントにいいサイズのガリエツが釣れる。特に雄の婚姻色は美しい。サファイアブルーにレッドスポットがちりばめられ、口元がほのかに黄色い。こんな美しい魚が他にいるだろうか?自慢話だが、アラスカ、カナダの西海岸へは何度も遠征に行っている。ドリーバーデンの本拠地なのだが、こんな大きなサイズのドリーが入れ食いってことは経験がない。アラスカでのべ竿で餌釣りを試したが、尺上サイズがそこそこ釣れ、その時はそれでも十分満足だった。だって、北海道で尺上のオショロコマはめったに釣れないだろう(ミヤベイワナは別として)。これがカムチャツカの実力なのだ。50年前はアラスカでも、このサイズのドリーバーデンが飽きるほど釣れたのだろう。
 さて、命題であった「ガリエツ」がアークティクチャーなのかドリーバーデンなのか…私と奥田氏の見解は、「ドリーバーデン」だろうということで一致した。昨年は70cm代のサイズが釣れたというから、遡上した群れが違うのかもしれない。このことは今後のテーマとしておいたほうが、カムチャツカを再訪する動機になるだろう。謎は徐々に解明するところに楽しみがあるのだ。

 

その他、今回は見事にシルバーサーモンのファーストランに当たった。お盆の時期にシルバーが来るかどうかは正に賭けで、今回は僥倖だったと言えるだろう。なかなか口を使ってくれないレッドサーモンも釣れたし、真っ赤な婚姻色の出たレッドサーモンが支流の滝を遡上しようとするハイライトも見せてもらえた。根がかりかと思うような大きなシロザケも釣れたし、見よう見まねのストリーマーでニジマスを釣ることが出来た。これもカムチャツカだからこそできることだろう。

4日目、朝から冷たい雨が降っている。既に十分釣欲が満たされたので、ロッジでのんびり過ごすことにした。昼頃、「ウハー一緒に食べないか」とのお誘い。のこのこ出ていくと、ロシア人グループと一緒に酒盛りが始まる。ビールなど出ない。最初からウォッカだ。熊のようなロシア人3人を相手に飲み比べ。バルチック艦隊を迎え撃つようなものだ。昭和の男としては、受けて立つほかない。半日、飲み続けて何とかしのぐ。よほど気に入ってくれたのか、一緒にバーニャに行こうと誘われるが、丁重にお断りする。日ロ親善も悪くはない。言葉は通じないが、飲みニケーションはロシアでも通じることが分かった。

 

さて、次はどこに行こうか?一つの旅が終わると、すぐに次のプランニングが始まる。世界地図を見ながら妄想する時間が最近、無性に楽しいのだ。カナダのレイクトラウトとブルックトラウトは既にプランに入っている。モンゴルのタイメンやレノックも気がかりだ。ロシア沿海州も機上から見たシホテアリニ山脈の森林地帯が忘れられない。コッピ川はこのうっそうと茂る森林地帯を流れているのだ。人生は思っているよりも短い。やりたいことは急いでやらないといけない。時間はつくるもの、お金は天下の回りもの。開高健の時代より海外釣行はずっとお手軽になっている。さあ、あなたも海外釣行への扉を開けよう、きっと新しい世界が広がるはずだ。

イーチャバーのガリエツ

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