vol.15 フライは美しいほうがいいに決まってる!? / 米倉 順孝 [2023.06]
魚を釣りたいだけなら、餌でもルアーでもいいはずだけど、なぜフライフィッシングなのか。
私の答えはいたって単純で、それは「かっこいい」から。
きれいな川できれいなループを飛ばし、美しいフライで美しい魚をキャッチする。写真の中に切り取られたら、どれだけかっこいいことかと。
今のところ、それは妄想の世界ではあるが、それがフライフィッシングの魅力だと思う。
フライフィッシングは家にいる時から始まる。
次の釣行では、どんなフライが良いか、何色にしようか、何本巻いていこうかなどと考えを巡らせる幸福な時間は、フライフィッシャーに与えられた特権だ。
そして、釣った魚がくわえているフライは、美しいほうがいいに決まっている。いや、美しくなければならない!
九州の本流で美しい本流ヤマメを、美しいウェットフライで釣るという目標を立てつつ、奥田さんに少しずつキャスティングやタイイングを教わりながらチャレンジが始まった。
実際はというと、初めてウェットフライを巻いて実釣した際は、水中でクルクル回って、トラブルも多くほとんど釣りにならないし、ドロッパーを付けようものなら1キャスト1トラブル・・・。
何度汚い言葉(クソッ)を川に向かって叫び、何度ロッドをたたき折ろうとしたことか・・。
河原ではこんな釣り辞めてやると心に誓い、帰りの車中でリベンジを誓う。
そんな調子でかっこ悪いデビューを飾ったものの、何とか釣りが成立し始めた矢先、新型コロナウイルスの流行が始まった。
これはしばらく釣りに行けないではないか・・神様は私にどれだけ試練を与えるのか・・、暗澹たる気分で過ごしていた。
しかし、ここは切り替えるしかない、明けない夜はないのだ。せっかくのおうち時間を、タイイングの技術向上に使えないだろうかと奥田さんに相談し、Zoomを使ってのタイイングレッスンが始まった。
巻きたいフライをイメージしたら、マテリアルの下準備。フライのバランスを考えた大きさや長さのマテリアルを選び、下巻きから丁寧に、ハックルの向きや止める角度、スレッドを巻く回数、ウイングを美しく仕上げるためのスレッドワーク、などなどディテールにこだわりながら教わりつつ、理想とする美しいフライに少しずつ近づいていく。
そしてフライタイイングの深層へズブズブと音を立ててはまり込んでいく。
コロナ禍も3年経過し落ち着いてきた頃、奥田さんの勧めで、ミッジングウェットなるものに挑戦することになった。
20番以下のウェットフライ・・。う~ん、正直さすがにいやだなあ、とか思いながら騙されたと思ってタイイングに取り掛かる。
だめだ、見えない、やっぱりつらい、つらいぞ~。
さらに、試練は続く。
ほっそーいティペットで、20番以下を投げるのだが、ちょっとでもタイミングを間違えるとすぐにくちゃくちゃ。
これは、つらさを通り越して、もう笑うしかない。笑ってないとやっていられない。
それでも、2日目には少し慣れてきて、時には神様も微笑んでくれるのであろう。運よくアマゴとシラメをキャッチできたのである。
帰宅後、面白いことに通常サイズのウェットフライが簡単に巻けるようになってるではないか。まさに奥田マジック。これは、釣れる、釣れる気がするぞ~。
美しいフライが仕上がると、それだけで釣れる気がしてくる。
釣れる時というのは、何かお知らせのようなものが降臨してくるのか。
土曜日午前の仕事を終え、日曜日も仕事を控えていたが、その日は釣れる予感がした。
土曜の午後のみ往復4時間実釣2時間の短期決戦。
「今ならドロッパー2本いけると思うよ」という奥田さんの言葉を信じ、川に立つ。
3本のフライが優雅に川を横切り、核心部に差し掛かる。「キタッ」、ヤマメ特有のトルクのある引き。美しい銀色の魚体が川岸で跳ねた。まずまずのサイズだ。
時間がかかったチャレンジであったが、結果その日は2尾の銀色本流ヤマメをキャッチした。
釣れる時はそんなものなのか、いろいろな努力が集約された結果なのか。
今まで汚い言葉を投げかけてきたことを謝りつつ、その日は感謝の言葉を川に向かって叫ぶ。
なんて都合のいいやつなんだろう、と思われているに違いない。
次は、サーモンフライ・・。いや、それだけはやめておこう。やめておこう・・。